ROICとは?計算式・目安・ROEやROAとの違い・WACCとの関係をわかりやすく解説
ROICの意味と計算式、目安、ROE・ROAとの違い、WACCや企業価値との関係、数値を見る際の注意点をわかりやすく解説します。
企業の収益力を分析する指標として、 ROEやROAとともに注目されているのが「ROIC」です。
ROICを見ると、 株主や金融機関から調達した資金を使って、 企業がどれだけ効率よく利益を生み出しているかを確認できます。
ただし、 ROICは企業によって計算方法が異なることがあり、 数値の高さだけで企業を評価するのは適切ではありません。
この記事では、 ROICの意味や計算式、 数値の目安、 ROE・ROAとの違い、 WACCとの関係について、 初心者にもわかりやすく解説します。
ROICとは?
ROICとは、 日本語で「投下資本利益率」と呼ばれる財務指標です。
英語の 「Return On Invested Capital」 の頭文字を取った言葉で、 一般的には「アールオーアイシー」と読みます。
ROICは、 企業が事業に投じた資本に対して、 どれだけ効率よく利益を生み出したかを表します。
ROIC = 税引後営業利益(NOPAT)÷ 投下資本 × 100
例えば、 ROICが8%であれば、 事業に投じた100円の資本から、 1年間におよそ8円の税引後営業利益を生み出したと考えられます。
ROICは、 単に利益額の大きさを見る指標ではありません。
どれだけの資本を使ってその利益を生み出したのか、 という資本効率を見る点に特徴があります。
ROICの計算式
ROICの基本的な計算式は次のとおりです。
ROIC = NOPAT ÷ 投下資本 × 100
分子には税引後営業利益であるNOPATを使い、 分母には事業へ投じられている資本を使います。
NOPATとは
NOPATとは、 「Net Operating Profit After Tax」の略で、 日本語では税引後営業利益と呼ばれます。
簡略化した計算では、 営業利益に税率を反映して求めます。
NOPAT = 営業利益 ×(1-実効税率)
例えば、 営業利益が10億円、 実効税率が30%であれば、 NOPATは次のようになります。
10億円 ×(1-30%)= 7億円
ROICでは、 借入金の多さや支払利息などの資金調達方法による影響を抑え、 主に事業そのものが生み出す利益を見るために、 営業利益を基準としたNOPATを使います。
営業利益については、 損益計算書とは?売上高・営業利益・経常利益の見方 も参考にしてください。
投下資本とは
投下資本とは、 企業が事業活動のために実際に使用している資本です。
一般的には、 次のような計算方法が使われます。
投下資本 = 株主資本 + 有利子負債
株主資本は株主から提供された資金や利益の蓄積であり、 有利子負債には銀行借入金や社債などが含まれます。
一方、 企業の資産側から投下資本を計算する場合は、 次のような方法もあります。
投下資本 = 事業用資産 - 無利子負債
無利子負債には、 買掛金や支払手形など、 通常は利息を支払わない負債が含まれます。
理論上は、 資金調達側から計算しても、 資産運用側から計算しても、 おおむね同じ投下資本になると考えられます。
貸借対照表の仕組みについては、 貸借対照表(B/S)とは?資産・負債・純資産の見方 で詳しく解説しています。
期首と期末の平均を使う場合もある
利益は一定期間に生み出された金額ですが、 貸借対照表の投下資本は特定時点の金額です。
そのため、 より正確に計算する場合は、 期首と期末の投下資本の平均を使います。
平均投下資本 =(期首投下資本 + 期末投下資本)÷ 2
企業買収や大型設備投資によって、 期中に投下資本が大きく変化した場合には、 期末の数字だけを使うと実態とずれることがあります。
ROICの計算例
次のような企業を例にROICを計算してみましょう。
| 営業利益 | 15億円 |
|---|---|
| 実効税率 | 30% |
| 平均投下資本 | 120億円 |
まず、 NOPATを計算します。
15億円 ×(1-30%)= 10.5億円
続いて、 NOPATを投下資本で割ります。
10.5億円 ÷ 120億円 × 100 = 8.75%
この企業のROICは8.75%です。
これは、 事業に投じた100円の資本から、 約8.75円の税引後営業利益を生み出したことを意味します。
ROICの目安は何%?
ROICには、 すべての企業に共通する絶対的な合格基準はありません。
一般的には、 次の3つと比較して判断します。
- 企業のWACC
- 同業他社のROIC
- その企業自身の過去のROIC
ROICが10%であっても、 WACCが12%であれば、 資本コストを十分に上回っていません。
反対に、 ROICが7%でも、 WACCが4%であれば、 資本コストを上回る利益を生み出していると考えられます。
また、 多くの設備や資産を必要とする業種と、 少ない資産で事業を行える業種では、 ROICの水準が大きく異なります。
そのため、 「ROICが何%以上なら優良企業」 と一律に判断するのではなく、 業種や資本コストを踏まえて評価することが重要です。
ROICとWACCの関係
ROICを分析するときに、 特に重要なのがWACCとの比較です。
WACCとは、 「Weighted Average Cost of Capital」の略で、 日本語では加重平均資本コストと呼ばれます。
株主から資金を調達する場合には、 株主が期待する収益率が資本コストになります。
銀行借入や社債で資金を調達する場合には、 支払利息などが負債コストになります。
WACCは、 株主資本コストと負債コストを、 資金調達の割合に応じて加重平均したものです。
ROICがWACCを上回る場合
ROIC > WACC
ROICがWACCを上回っている場合、 企業は資金調達に必要なコストを上回る利益を 事業から生み出していると考えられます。
理論上は、 事業活動によって企業価値を生み出している状態です。
ROICがWACCを下回る場合
ROIC < WACC
ROICがWACCを下回っている場合、 事業から得られる収益が、 資金調達に必要なコストを下回っていると考えられます。
利益自体は出ていても、 投資家や金融機関が求める収益を十分に生み出せていない可能性があります。
ROICスプレッドとは
ROICとWACCの差は、 ROICスプレッドなどと呼ばれます。
ROICスプレッド = ROIC - WACC
例えば、 ROICが8.75%、 WACCが6%であれば、 ROICスプレッドは2.75ポイントです。
8.75% - 6% = 2.75ポイント
ROICスプレッドがプラスであれば、 資本コストを上回る収益を生み出していると考えられます。
ただし、 WACCは市場データや前提条件を使った推計値であり、 計算方法によって結果が変わる点には注意が必要です。
ROICとROEの違い
ROICとよく比較される指標に、 ROEがあります。
ROEは、 株主が提供した自己資本に対して、 どれだけ当期純利益を生み出したかを表します。
| 指標 | 利益 | 資本 | 主に見る内容 |
|---|---|---|---|
| ROIC | 税引後営業利益 | 株主資本+有利子負債 | 事業全体の資本効率 |
| ROE | 当期純利益 | 自己資本 | 株主資本に対する収益性 |
ROEは株主の立場から見た収益性を示す指標です。
一方、 ROICは株主資本だけでなく、 借入金や社債などの有利子負債も含めて、 事業全体の資本効率を見ます。
借入金を増やすとROEが上がることがある
企業が借入金を増やし、 自己資本の割合を小さくすると、 当期純利益が大きく変わらなくてもROEが上昇することがあります。
しかし、 借入金を増やせば、 財務リスクも高くなります。
ROICでは有利子負債も投下資本に含めるため、 ROEよりも資金調達方法の影響を受けにくく、 事業そのものの資本効率を分析しやすいという特徴があります。
ROEについては、 ROEとは?計算式や目安、自己資本利益率の見方 で詳しく解説しています。
ROICとROAの違い
ROAは、 企業が保有する総資産を使って、 どれだけ利益を生み出したかを表す指標です。
| 指標 | 主な分母 | 特徴 |
|---|---|---|
| ROIC | 投下資本 | 事業へ実際に投じた資本の効率を見る |
| ROA | 総資産 | 企業が保有する資産全体の効率を見る |
総資産には、 現金や事業に直接使われていない資産、 買掛金などによって調達された資産も含まれます。
ROICでは、 無利子負債を除外するなどして、 事業のために投じられた資本へ焦点を当てます。
そのため、 事業部門ごとの資本効率や、 事業ポートフォリオを分析する場合には、 ROICが使われることがあります。
ROICはどのように改善できる?
ROICは、 次のように分解できます。
ROIC = NOPATマージン × 投下資本回転率
NOPATマージン = NOPAT ÷ 売上高
投下資本回転率 = 売上高 ÷ 投下資本
つまり、 ROICを高めるには、 利益率を上げるか、 少ない資本で多くの売上高を生み出す必要があります。
利益率を高める
- 販売価格を見直す
- 原材料費や物流費を削減する
- 不採算商品や不採算サービスを整理する
- 付加価値の高い商品を増やす
- 業務効率化によって固定費を抑える
運転資本を減らす
- 過剰な在庫を減らす
- 売掛金の回収を早める
- 仕入条件や支払条件を見直す
在庫や売掛金が過大になると、 多くの資本が事業の中で動かなくなり、 投下資本回転率が低下します。
固定資産を効率的に使う
- 稼働率の低い工場や設備を見直す
- 不要な土地や建物を売却する
- 設備を共有する
- 外部委託やリースを活用する
事業ポートフォリオを見直す
ROICが資本コストを継続的に下回る事業については、 改善、 縮小、 撤退、 売却などを検討する場合があります。
一方で、 現在のROICが低くても、 将来大きな成長が期待できる事業には、 積極的に投資する判断もあり得ます。
ROICが高ければ必ずよいとは限らない
ROICは高いほど資本効率がよいと考えられますが、 数値だけで企業を評価することはできません。
必要な投資を抑えている可能性がある
設備投資や研究開発投資を抑えると、 短期的には投下資本が増えず、 ROICが高く見えることがあります。
しかし、 必要な成長投資を行わなければ、 将来の競争力や利益が低下する可能性があります。
企業買収によってROICが低下することがある
企業買収を行うと、 のれんや取得した資産が投下資本に加わり、 ROICが低下することがあります。
買収直後は利益への貢献が小さくても、 数年後に利益が拡大する可能性もあります。
そのため、 買収後のROICは、 単年度だけでなく複数年の推移を見る必要があります。
業種によって水準が異なる
ソフトウェアやインターネットサービスなどは、 少ない有形資産で大きな利益を生み出せるため、 ROICが高くなる場合があります。
一方、 電力、 鉄道、 通信、 製造業などは、 大規模な設備投資が必要であり、 投下資本が大きくなりやすい業種です。
業種の異なる企業を、 ROICだけで単純に比較するのは適切ではありません。
企業ごとに計算方法が異なる
ROICは会計基準で統一された指標ではありません。
企業によって、 分子に使う利益や、 分母に含める資産・負債が異なる場合があります。
例えば、 のれんを投下資本に含めるか、 現預金をどの程度除外するかによっても数値が変わります。
企業が開示するROICを見る場合は、 計算式や定義も確認することが重要です。
PBR・ROE・ROICの関係
PBR、 ROE、 ROICは、 いずれも企業価値や資本効率を分析する際に使われますが、 見ている対象が異なります。
| 指標 | 主に示すもの |
|---|---|
| PBR | 株価が純資産の何倍まで評価されているか |
| ROE | 自己資本からどれだけ当期純利益を生み出したか |
| ROIC | 事業に投じた資本からどれだけ営業利益を生み出したか |
ROICが高く、 資本コストを上回る収益を継続的に生み出せる企業は、 将来的に市場から高く評価される可能性があります。
ただし、 高いROICが必ず高い株価や高いPBRにつながるわけではありません。
将来の成長率、 事業リスク、 財務状況、 株主還元なども市場評価に影響します。
PBRについては、 PBRとは?1倍割れの意味・計算式・PERやROEとの違い もあわせて確認してください。
ROICを見るときのチェックポイント
実際に企業のROICを分析するときは、 次の点を確認しましょう。
- ROICがWACCを上回っているか
- ROICが数年間にわたって改善しているか
- 同業他社より高いか低いか
- ROICの計算方法が明示されているか
- 一時的な資産売却や費用削減の影響がないか
- 成長投資を抑えすぎていないか
- 事業部門ごとのROICが開示されているか
- ROIC向上策が具体的に示されているか
また、 ROICだけではなく、 売上高や営業利益の成長、 キャッシュフロー、 負債の水準なども確認する必要があります。
キャッシュフローについては、 キャッシュフロー計算書とは?3つの区分と見方 も参考にしてください。
ROICが重視される背景
東京証券取引所は2023年3月、 プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対して、 資本コストや株価を意識した経営を要請しました。
さらに2026年4月には、 経営資源の適切な配分を中心とした考え方を示し、 これまでの要請を更新しています。
単に売上高や利益を増やすだけではなく、 企業が保有する資本を有効に使い、 資本コストを上回る収益を継続的に生み出すことが重視されています。
経済産業省も、 ROICを事業ポートフォリオ管理に適した指標として示しています。
ROICは、 経営者が資本をどの事業へ配分するかを考えるための指標であると同時に、 投資家が企業の資本効率を分析するための指標でもあります。
ROICに関するよくある疑問
ROICは高いほどよい?
基本的には、 ROICが高いほど資本効率がよいと考えられます。
ただし、 一時的な費用削減や投資抑制によって高くなっている場合もあるため、 数年間の推移や成長投資の内容も確認する必要があります。
ROICは何%以上ならよい?
一律の基準はありません。
その企業のWACCを上回っているか、 同業他社や過去の水準と比べてどうかを確認することが重要です。
ROICとROEはどちらを見ればよい?
どちらか一方だけを見るのではなく、 両方を確認するのが適切です。
ROEは株主資本に対する利益率を示し、 ROICは有利子負債も含めた事業全体の資本効率を示します。
赤字企業でもROICは計算できる?
営業利益が赤字であれば、 NOPATも通常はマイナスとなり、 ROICもマイナスになります。
赤字企業では、 ROICの絶対値よりも、 赤字が縮小しているか、 将来どのように資本効率を改善する計画なのかを見ることが重要です。
まとめ
ROICは、 企業が事業に投じた資本を使って、 どれだけ効率よく利益を生み出したかを示す指標です。
ROIC = 税引後営業利益(NOPAT)÷ 投下資本 × 100
ROICを見るときは、 数値の高さだけではなく、 WACCとの比較が特に重要です。
ROIC > WACC
この状態が継続していれば、 企業は資本コストを上回る収益を生み出していると考えられます。
ただし、 ROICは企業ごとに計算方法が異なり、 業種によって適正な水準も変わります。
ROE、 ROA、 PBR、 キャッシュフローなどと組み合わせ、 複数年の推移や企業の成長戦略も確認しましょう。
参考資料
本記事は財務指標の一般的な解説を目的としたものであり、 特定の銘柄や金融商品の売買を推奨するものではありません。